昆虫と会話できた日々が自分にもあっただろうか・・
同じ農園で働いていたシンくんはお互い感覚が近いということもあって話しやすい。というよりも、まるで鏡に向かって話しているような気持ちにすらなってしまうほどだ。お互いにたくさんのアドバイス、意見、アイデアを出し合っていたが、僕がシンくんに告げるそれらの言葉は、そっくりそのまま自分自身に当てはまることばかりだ。こういう人がいると自分を見失わない気がするから、ありがたい。この写真について語ると、シンくんはずっと劇団員として舞台中心に活躍してきた経験を持つ。さすがアクション中心の劇団にいただけあって、動き一つ一つに躍動感があって、形が綺麗だ。農業の作業スピードも異常に早く、畑に植わっているビーツ収穫をやらせたら世界ランカー並みの凄腕だ。身長が高く農作業では負担が大きいだけでなく、
生真面目で手が抜けない性分だから、時折身体を酷使してしまうこともあったが、持ち前の明るさで僕たちの農園での時間を楽しいものにしてくれていた。それにしてもこの写真は我ながら素晴らしい。このシチュエーションにテンションがあがった僕は彼に負けてはなるまいとパンツ一丁になって撮影した。その甲斐があったというものだ。シンくんは現在、貸し農園のスタッフとして働きながら写真を撮っている。被写体は昆虫。インスタをやっている方には是非シンくんの写真を見てもらいたい。僕は初めて見たときに度肝を抜かれた。30代後半の男が撮れる写真ではないと思った。そこには、虫取り網とカゴを持ちながら、野山を駆け巡る少年の眼差しがあった。昆虫から言葉が聞こえてくる。その昆虫の性格すらも伝わってくるようだ。まるで人間のように。僕にもこの少年(シンくん)と同じように、昆虫と会話できていた日々があったのだろうか・・。きっとあったにちがいない。だって写真を眺めているだけで、自分の心がスッキリと洗われていくのだから。僕は彼に写真の道を勧めた。自然と人間との距離が離れてしまった今、多くの人にシンくんの写真を見てもらいたい。